2011年10月29日土曜日

入試に「情報科」を(前編)


情報処理学会の会誌などを見ていると、センター試験側に情報化を科目として取り入れてほしいという内容の書面を送ったことなどが書かれています。センター試験でやることに意義があるかどうかはともかくとして、入学試験に情報科を取り入れるべきであるという意見はいくつかの理由から賛成します。今回はそういう話です。


まず、入試に関係のない科目は学習しない、という非常によくある話からです。高校生、特に高校3年生は、入試の配点・必要性などの高い科目を勉強し、入試に出てこない科目(たとえば国公立大学の理学部や文学部を受験するなら、理科基礎や保健体育、芸術、家庭科等が挙がります)はまず勉強しません。私もそうですし、また、多くの友人も勉強していたようには見られませんでした。合格という観点から考えても、勉強しなかったというより、そこまでやる暇はない、というほうが正確な気がします。

同様のことは学校にも見られ、入試に使えない科目は教えないという兆候が見られます。数年前にあった世界史他の未履修問題はその最たる例です。他、指導要領の範疇で、数学B科目やC科目の統計関連やコンピュータ関連は教えなかったり、地学は開講しなかったりします。未履修問題はともかく、他の範囲で入試偏重になるのは現状では仕方がない部分であると思います。

一方で大学入試は大学でやっていくのに必要な力が身に付いているかどうかをみるものですから、たとえばプログラミングが必須であるような学科であれば、(本来に戻って)情報の試験も必要であると思います。Yahoo!知恵袋だったかで、「プログラミングがわからない」というような質問をしている人に「情報の入試をしない大学を恨みなさい」のような答えをしている例を見たことがあります。

大学で教えられる科目のうち、入試に関連してこない内容を基礎とする科目は、いろいろと苦労するようです。2008年の数学セミナーの4月号だったか5月号だったかに、数理統計学を大学でどのように学べばよいか記した記事がありました。この中で書かれていた内容に「高校数学の教科書内容をマスターしてから受講することが重要」「高校数学程度のことを教えるのに時間を割かざるを得ない現状では講義が大変すぎる」というものがありました。情報も似たり寄ったりではないでしょうか。

現状の高校教育には、指導要領以上に入試が影響を及ぼします。したがって、入試に情報科を取り入れるべきとする意見には賛成ですし、また、それが大学のメリットにもなると思います。流れで言いますと

1.大学では情報科学を教えることがあり、そのために高校程度の情報の知識は必須である。
2.そのため、その情報の知識/思考について、入試で確認するべきである。
3.入試で情報を使うようになると、高校でも授業をするようになり、高校生も学ぶようになる。

というものです。情報化社会といわれて久しく、パソコンをはじめとした情報リテラシーは必須と言われますので、情報科をしっかり学ぶのは確かに良いことであると思います。しかし、入試に関係がないということで学ばれない現状は「情報科を学んだ」とは言い難い状況なので、その改善に、まず入試に情報を加えることから(もちろん必要性もあるし)というのが、情報処理学会の出した意見なのだと思います。

長くなりますので、また来週。

7 件のコメント:

Volcanologue さんのコメント...

否定的なコメントですが.
高校時代,全員に対してやらせるものとしては,基礎科学,すなわち純粋な数学,理科3科目をあげるべきだと思います.地学は自然科学でも,かなり応用的なものなので,物理,化学,生物学を理解していないと,わからない(少なくとも大学1年生でやるような教育は)と思います.いっそのこと高校地学を潰して,各教科に万遍なく割り振ればいいのではないかと思っています.たとえば重力異常は物理でやるとか.additional に地学をやると言うのなら兎も角,基礎科学はちゃんと押さえておいて欲しいなと思うのです.
さて本題ですが,プログラムは,ご存じの通り数学の一分野です.だから,まずはそれを解析するための基礎的な数学,たとえばランダウのO-記法などをちゃんと学んで欲しいと思います.これはイプシロン-デルタを学ぶ程度には重要なことと思います.しかしアルゴリズムに関しては,別に必要ないと思います.コンピュータという高速だけれども,単なる演算器にどう渡すかという技術は,人間がどう問題を処理するかとは全く等価ではないからです.むしろ人間という高級な演算器(ただし低速)がどう処理するかを学ばせた方が,encode する上でも役に立つと思うのです.たとえば 456435 + 6847 の演算を手計算で実行できない場合は電卓は使わない方がいいと思うのと同じ logic で.
応用的なことをやる前に,まずは既存の教科書を自力でこなせる程度に仕立てることが重要でしょう.

無論,プログラミングや地学を学習することは妨げないばかりか,推奨しますが,全員に(つまり文系の人間にも)強制的に与えるのは否定的です.センター試験の 60 + 60 分では二次関数,確率,微積分,ヴェクタ,幾何学.この程度が素養として必要と見なし,全員にやらせればいいと思います.additional にやった人のおまけとして選択で残す,現段階でも構わないと思います.

#プログラムの問題が basic でかなり簡単に見えるのは,私の気のせいだろうか?

達哉ん/Tatuyan さんのコメント...

>Volcanologueさん
ありがとうございます。
基礎科学は確かにもっとやるべきであると考えます。が、高校地学を潰したところで現在の高校理科教育では全く時間が増えないというのが現状なので、他をやるのは厳しいのかも知れません。なお、私は地学などは必修化する必要は全くないと思っています。

プログラムは一例としてあげましたが、プログラムやアルゴリズムについて学ぶべきという意見ではありません。たまたま私が通じている為、Programmingを挙げましたが、あまりそこにこだわるつもりはありません。

全員がやる必要まではないと思いますが、少なくとも大学以降で学ぶに必要な人について、入試で取り入れるのはいいのではないか、という意見です。必修化(既に必修ですが)ではなく、必要な人により学ばせるようにするために、というのが情報処理学会の意見であり、私の賛同している部分でもあります。

まとめますと
「入試科目として情報を用意すべき大学は用意すべきではないか。また、それに対応するべく、センター試験は情報科の試験も用意すべきではないか」
ということです。
論旨が少々違う気がしましたので、あくまでも入試の1科目として情報を作るべき、という意見であることを強調しておきます。「プログラミングやアルゴリズムを教えるべき」とか「情報科の試験を全員に課すべき」という意味ではありません。

なお、Basicプログラミングの問題はとてつもなく簡単です。数IIB分野において、私は当該問題を選びましたが、かなり時間を節約できました。

Volcanologue さんのコメント...

私が地球科学をやっているので思わず力点が地学になってしまいました.そのため論旨がぼけてしまった.(そして書き方もよくない)
まずはそのことを謝ります.
さて,主張したいのは,以下:
1・高校では基礎科学と文系教科をやることになっている
2・時間数は増えない
3・情報を入れると現内容を削ることになる
故に反対.
ここまでです.

達哉ん/Tatuyan さんのコメント...

>Volcanologueさん
ありがとうございます。
そうですね、私も現内容を削るほどに情報をいれなくてもいいと思います(現在必修として定められている程度の量で十分です)。

釡江典裕 さんのコメント...

情報科では, そもそも何を教え, 何を試験で問うのか?
私が受けた小学校, 中学校, 高校で習う情報の授業は, オフィスソフトの使い方, プログラミング, ウェブブラウザの使い方... だったように思います.
でも, センター試験で某社のソフトがでてきて, 「XXメニューをクリック」とかが出題されるとは到底考えられないですよね?
あるていど学問として学び, センター試験で問われるのであれば, 基礎的な理論; 例をあげると, 暗号, ネットワーク, 情報理論, などが適切でしょう.
一方で, 社会が求めているのは理論ではないのかもしれません.

達哉ん/Tatuyan さんのコメント...

>釡江典裕 様
ありがとうございます。
実際の授業で扱う内容は(文部科学省によれば)上記のようなことはあまりなく、暗号やネットワークなどの基礎的な内容と、社会との関連性(ネットワークはどのように利用されているか、ネチケットとは何か)についてにするべきなのだそうです。後編でその問題例を私なりに作ってみて、公開する予定です。

オフィス、Programming、ウェブブラウザの利用などは情報の一部で行うものであり、決して実技だけではないというのが指導要領から読み取れますが、実際は実技ばかりになっているのが現状です。

学会誌で連載されていた内容も考慮に入れると、
1.実際のソフトの利用ばかりに重点が置かれているのは問題であるのではないか(とりわけ大学での授業のため)
2.入試にないからと学ばれないことが少なくないのではないか
3.大学に入ってから情報の基礎的な知識がなくて困る学生がいるのではないか
という問題点の解決策の一環として、入試科目に情報を追加してはどうかというものだと考えております。

釡江典裕 さんのコメント...

コメントありがとうございます.
> 暗号やネットワークなどの基礎的な内容と、社会との関連性について
センター試験に出題するという点では, 妥当なところなんでしょうね.
ただ, このあたりの理論・技術は多くの抽象化が重ねられていて, 難しそうですね.
> 後編でその問題例を私なりに作ってみて、公開する予定です。
楽しみにしています. (でも, 本業の方もあるので, 無理はされないでください.)

例えば, 電子商取引などがますます発展してゆく中で, 暗号 (署名・暗号化・タイムスタンプ) がどのように行われているのかは知っていてほしいものです. 他の分野も同じように知っていてほしいものです.
私個人の考えとしては, 様々な点を情報科とひとまとめにするよりは, 例えば以下のようにバラバラにして割り当てることが良いと思います.
1. 基礎理論 (暗号・ネットワークなど); 高校・センター試験へ,
2. ネチケットなど; 小学校へ,
3. 実技 (ウェブ・オフィスなど); 入試の手続きに取り入れる.