2010年9月16日木曜日

万年筆布教論7 「試し書きによる選び方」

--以下本文--
先迄の項において、購入に関する流れは記しており、前項からはよりつぶさに、細かい点を見ている。本項においては、試し書きの方法とそれによるペンの選び方について詳述する。無論、万年筆好きが試し書きによって好みのペンを見つける方法を述べるのではなく、万年筆初購入者に立ち会いのもと試し書きをする際、どのようなことに気をつけるべきかを記す。

前述の通り、試し書きによる書き味は決定だとはなりえない。後の調整関連項目にも記すが、初心者の万年筆の書きぐせはあまりあてになるとは言えない。これから変わっていくのであり、安定していないというのが正確なところである。事実、万年筆を使うようになってから寝かせるようになる人や筆圧が低くなる人は多く、呼び水のペンにより多少慣れていたとしてもあくまで多少であるということを念頭においておかねばならない。

試し書きに関する作法については様々に知られており、趣味の文具箱等でも取り上げられているので本項では記述しない。その作法について一通り紹介した上で、布教相手に試し書きをしてもらう。インクの質、用紙の質はそのペン自体に対する絶対評価を下すのに重要ではあるが、初心者に紹介する場合にその点は無視して良い。布教者が簡易な試し書きを行ない、及第点に及ぶペン数本を試し書きしてもらい、それらの相対評価により選ぶようにする。これは、そもそも多くのペンを書いていてはっきりとした評価基準を持つマニアと違い、初心者は評価の拠り所とするペンを持たないためである。あるいは、呼び水のペンを評価の拠り所とする場合もあるが、先に述べたとおり、呼び水のペンと比較すればどれも良い、という状況であるべきであり、逆に呼び水のペンより悪いと感じるペンは購入すべきでないため、この評価基準は無視して良い。呼び水のペン一本だけの評価基準で多数の万年筆を統一的に評価するのは不可能である。そもそも、万年筆インプレ広場などで議論がかわされることもあるほど、万年筆の書き味の感じ方は流動的である。そのような状況下で、一本のペンを評価基準に置いたところでそれはなきに等しい基準であるといえよう。

相対評価で気にすべき点はどこか、というところであるが、用途に応じた太さであるならば気にすべき点はさして多くない。強いてあげれば、その人の最速筆記速度に対応するかという点であろうか。ただ、書きぐせのさだまっていない初心者なのだから、この点についてもあまり気にする必要はない。しからば一切気にしなくてもよいかといえばそうではなく、当人が「書きやすい」「使っていたい」と感じられること、そして、ある程度の連続筆記で手が疲れないことの2点を重視せねばならない。

上記2点は万年筆初心者であっても単純に分かりやすい万年筆の利点であり、それ以上に万年筆を長く使ってもらう上では不可欠のファクターである。相対評価においては当人が一番「書きやすい」もしくは「疲れにくい」と感じたもの(出来ればその両方を最も強く感じたもの)をセレクトするのが良い。

先に万年筆の書き味の絶対評価と書いたが、これは多くのペンの書き味を試し、それに対しての相対評価の平均値と単純に考える。ペン先の柔軟性等についても、相応の本数を書かねば言いたいことは理解出来ないだろう。インクフローが潤沢、と言っても、どの程度を潤沢とするのか。インクフロー定数の定義に関する研究が進めば(本論文執筆時点においては理論構築中であるが難航している)、確かに数値化した絶対評価が出るだろうが、それが人間の感覚と一致するかどうかは別問題であるし、現状私が構築している理論においてはインクフロー定数は個体依存である。これらの点から、万年筆の絶対評価というものは相対評価に帰着されると思っていいし、相対評価としての基準を持たない初心者の場合はなおさら相対評価を意識した試し書きを行うべきであろう。

相対評価のペンについては、値段及びデザインで選んでもらった後に、布教者側のペン先状況チェック及び試筆によるチェックで及第点が取れるようならば全て加えてしまって良い。あまりに本数が多い場合は予選決勝法でも良いが、予選決勝法を行う場合は絶対に1本の購入に絞るようにしたい。2本以上の一度の購入は(後に詳述するが)そもそも勧められないが、予選決勝法を行う場合、次点の決定は単純に選ぶ場合よりも面倒になる。書き味は感覚であるが故単純に数値化されることはないので、予選決勝法で各予選において次点までとった場合、その微妙な差異に購入者本人が翻弄されてしまうおそれがある。十分に悩んだ上での1本を相対評価で買うのが布教論における一本目の正当な購入であると考えている。

試し書きで選ぶ際の点をまとめれば、
・十分な数の相対評価対象を用意すること
・単に当人が分かりやすい「疲れにくさ」「書きやすさ」を重視すること
・試し書きにおける用紙やインクの質、あるいはつけペンでの試し書きであることによるインクフロー補正等は布教者側がそれを考慮し、及第であるペンを相対評価対象とすること
の3点となる。
--以上本文--
マクロからミクロへ、という順序で書いています。論文自体はマクロからミクロへ書き、その後この流れ以外の部分(=オプション)について述べる、という構成です。

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