2010年9月8日水曜日

万年筆布教論4 「購入するペンの選び方」

偶数日連載の「布教論」の続きです。本ブログでは草稿段階での発表で、一通り書き終えたらWAGNER発表を考えています。疑問等あればコメントください、最終段階に生きてくるので…。
--以下本文--
前項において、購入以前にペンを渡し、それを題材に興味を持ってもらい、一本目の購入機会を見つけるにいたるまでを記した。ここでは購入すべきペンはどのようなペンか、ということを述べていく。
一つに、中古を敬遠すべきでないという意見を掲げる。これは、比較的安価に良質なペンを入手できるためである。中古が新品に対して劣っているという考えは、万年筆に関して言うならば捨てるべきである。無論、中古で状態の悪いペンが存在することは明らかであるが、布教者が正確な眼力を持ってそれらのペンを選ばないよう忠告することで中古のペンでも状態の良いペンを選ぶことができる。中古のペンは本来ある程度万年筆に慣れたものが自ら楽しむために状態を見て購入するか、あるいは調整等により「何とかしてしまう」ことで使うものであるが、前者については眼力さえあれば問題ないのである。調整環境があるならば、調整可能な程度の状態、と少しハードルが下がるので、より広範にペンを選ぶことができる。
このことを踏まえた上で、対面購入をすすめる。一本目からのネット購入は状態の確認ができないことから勧め難い。信頼できる布教者が状態を確認することによって初めて購入する万年筆が良いものとなるのである。これは、ネット販売を批判するものではなく、ネットでの購入において実物を見た個体差の確認ができないというネット販売そのものが持つ欠点を挙げただけであり、ネット販売自体は安価にペンを入手できる手段として勧められる。布教者が的確な調整を施せる環境にある場合はネット販売も視野に入れてよいが、見た目の違いがあることから、購入者にも一度は実物を見せておいたほうが良い。写真とペンブティックと文具店での見た目の差は素人目にも大きいものだからである。
布教者側が購入に際して提供するのは万年筆個別に関する情報と販売店、及びペン先を見分ける眼力である。それに加えて可能であれば調整環境も提供できればなお良い。これらを提供することで書き味のまずいペンを購入することを防ぐことができよう。一本目の書き味が悪いようでは台無しである。当人がストレスなくかけるペンを選んでもらうことは大切であるが、一本をもらい、初めて購入するという人に書き味の好みを聞いてもまだ比較対象がなくて好み自体がないはずである。したがって、当人の書き味の好みで選ぶマニアではなく、布教者側は「当人がストレスなく書けそうなペン」という観点から状態を見る必要がある。寝かせて書くetc等は書き癖が定まってからの話であるので、最初の段階からスイートスポットを意識する必要はない。よく言えば万人向け、悪く言えば八方美人な書き味が良い。コアなファンが好む柔らかい・硬いといった概念は無視し、とにかくストレスなく書ける状態であることを見極める、それが布教者に求められる点である。
一方購入する当人には、試し書きの方法等の説明をした後、デザインと値段の観点から数本の候補を選んでもらうことをおすすめしたい。その候補について上記のとおりに状態を見極め、後、試し書きをしてもらって「気に入った」ものを買ってもらえばよい。初心者である場合、当人の試し書きの結果はストレスなくかける状態か否か程度の情報しか得られないと心得ておき、その一点に集中して書き味を試させれば良い。どれもストレスなく、という場合の決め手は万年筆マニアとは違い、デザインと値段である。書き味の細かな差異で選ぶことよりも、デザイン・値段など明解な部分から選んでもらい、書き味は「ストレスがないこと」を保証すればそれで十分である。
ニブについてであるが、特殊なニブは必要なく、太字の類も不要である。初心者にとっては舶来のFですら太いと感じられることもあるので、EFもしくはFを旨として「太くないかどうか」で選んでもらえばよい。当人の使用用途によってはMまでが許容されることもあるが、太字を一本目にすすめるのは万年筆を普段から使ってもらうという観点に反する。したがって、基本はFと思っておけばよい。ヌラヌラの書き味は2本目以降であり、1本目はそれなりにスラスラインクが出れば問題ないのである。インクフローが潤沢であるかどうかは確かに万年筆選びのひとつの観点であるが、ニブが細字に限られる状況においてはあまり重要視する必要もなかろう。
マニアの書き味を押し付けるのは無意味である。デザインと値段で選んでもらい、ストレスなく書けること、状態が悪くないことを我々が確かめる。それがひとまず一本目を購入してもらい末永く使ってもらう手段である。

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